小川洋子『博士の愛した数式』を読みました。

映画にもなった原作。正直に言うと苦手な部類の本である。なんと言うか「本が好き!」とわざわざ言い立てる人が好きそうな話であるなあ、という感じ(書店員が選ぶ文学賞もなんかそういう空気があって好きではない。書店員は金のために売れる本を売ればいいのであって、ベストセラーこそが賞に値する、だからこそその年一番売れた本こそ受賞すべきなのに、いつも直木賞を逃した小説みたいなのが出てくる。読者はもっとちゃんと自分の読むべき本を選ぶ力はあるっての。もちろん作者には何の罪はもない。まあそれはさておき)。

ときどき時系列が「過去語り」になるのもよくわからなかった。あとは母屋にいる老婦人との間の過去がにおわせられながらあまり具体的に描かれていない。博士の記憶喪失はいいんだけど、それが昔と比べてどうだったのか、その対比があまりなくて淡々と三人の生活が続くだけでドラマ性を求めてしまうとすこし物足りなさが残る。あくまでハンデを負った博士との日常のやり取りがストーリーのメインにしたかったということなのだろうか。そもそも数学を専攻する「博士」レベルの人が「完全数は美しい」とかいまさら言うんだろうか? その辺が少し漫画チックでもあり古典的でもあり、「数学的なもの」へのあくまで文系人間が思い描くイメージがやや出過ぎているような気もして読んでいると少し恥ずかしくなる。

しかしその後、「数学ガール」や東野圭吾の「ガリレオ」シリーズ(あれは物理学だけど……)の隆盛を見るにつけ、本書が小説の世界に新しい「ことば」を吹き込んだ功績はあまりにも大きいと言ってよいでしょう。

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