よしもとばなな『なんくるない』を読みました。

を、読みました。

沖縄をテーマにした4つの短編が入っていますが、表題作の「なんくるない」がボリューム的にもメインの作品集です。その後のハワイ物、下北物、船橋物などに続く土地に根差した創作シリーズの嚆矢と言ってよいかもしれません。

しかしながら「なんくるない」に描かれるなかのもっとも「だからこそ吉本ばななは小説家だ!」とあらためてうならせていただいたのは、主人公のマイペースさの「世間ずれ」だけでなく、じっさいに本屋の書店員に悪口を投げつけられるその世の中からの「悪意」までしっかりと描いているところ。物語では序盤なので決してメインのエピソードではないのですが、この「マイペースさの傲慢」にしっかりメスを入れているところは読んでいてハラハラしました。

はっきり言うなら、読者のほとんどはマイペースに生きられず常に因果律の中であくせくしている社会人生活を送っている人ばかりのはず。そういう人にとっては昼食は一人で食べるとか、二次会は行かないとか、ささやかにマイペースを享受できる時間を捻出しているのが実際。でも、本当にマイペースな人はそういうことに気が付かない。自分であえて選び取ったのではなく、生来的にマイペースなのだ。そこに悲劇がある。傲慢に見えてしまう、それが人をイライラさせる──都会生活においては。

その後主人公は沖縄に渡って現地のよくわからん優男(件の本屋とは全く異なる「自由」を謳歌した家族経営の野外レストラン──もちろん見た目ほど楽しいものではないと作者は男のセリフを通してくぎを刺してくるのですが)とよろしくやっていくというこれ自体はあまり面白くもない展開なのですが、やはり序盤の本屋のエピソードは鬼気迫るものがあります。別にそれは文明論批判だとか、ちょっとしたライフハックではなくて、ただただ人間というのは悲しいものだと純粋に思わせてくれる挿話です。

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