を、読みました。
この本については当ブログでは2006年7月1日、この文庫本が発売されてすぐに読んで感想を書いています。たぶんそれ以来の再読になります。
でも、感動した場所はやっぱり同じでした。都会生活での出口のない失恋のひりひりとした感触もさることながら、やはり帰り着いた田舎で出会う「みつるくん」の生きざまというのが、ぼくがよくこのブログでも使う吉本ばななの小説に出てくる「倫理観」の最たるものではないかと思います。
決して目的的に人生を消費しないということ。境遇で自分を悲劇の主人公に仕立て上げないこと。ただ、いまある状況は嬉しいに越したことはないかもしれないけれど、「どん底」と人が言おうがそれは自分だけが引き受けなければならないオリジナルのもの。必要なことを必要だと感じるのであれば、当たり前のようにこなしていく。そこにどんな価値観も入り込むことはできない。価値観などというものを先におったてるまでもなく人生は続いていくし、自分の哲学とは相いれない出来事も次々と降りかかってくるものだ。それは選ぶこともできないし、似合う/似合わないで他人に任せることもできない。どんなに会社で偉い人でも、計算が得意な人でも、家に帰ったらしょうもない近所づきあいもあるしとってもささいなことに心を乱されることだってあるだろう。でも、別に仕事が偉くて日常の出来事が偉くないというわけではない。そういう順番はそもそも最初からないのだ。すべての時間は平等だし、すべての出来事は等価なのだ。
そういうことをあらためて認識させてくれる良い小説です。