河合隼雄,茂木健一郎『こころと脳の対話』

を、読みました。

河合隼雄といえばやはり対談が抜群に面白い。これまでも村上春樹との対談本は何度読み返したかしれません。またよしもとばななとの対談も興味深いものでした(いずれも新潮文庫で読むことができます)。

さて脳科学と心理学のそれぞれを代表する二人がどんな対談をするのかと、そしてまた河合隼雄の新刊著書としては最後になるのではないかという気持ちもありながらページをめくります。

科学的な立証性・再現性を追求する脳科学によってこの先脳の全てがわかったとしても、それで「こころ」の全てがわかるというものではない、そしてだからこそ河合は自身の主催する学会においては「事例報告」に特化し、あるいは茂木は脳科学が科学として扱える学問領域の限定性に煩悶する。このあたりが読みどころです。

科学的であること、定量的評価ができること、そういうわかりやすさに足をすくわれることは会社生活においても大いにあり得ます。そこでうち捨てられる「クオリア」的な語り得ぬもの──それこそが仕事で大事なんだとうそぶく先輩社員の暑苦しさ! あるいは「人にものを頼むときはメールじゃなくて電話にしなよ」なんて説教する御仁は語り得ぬ何かを徹底的にマニュアル化(言語として徹底的にこの世界に定着させる)しなければ気が済まないのかもしれない。

 「年収いくらですか」といったら、年収の高い人から低い人まで全部順番がつくでしょう。それは、一人ひとり分けているようで、なにも分けていないですね。お金で分けているだけなんだけれど、それでみんな錯覚を起こしている。
 そして、ちょっとでもみんなよりお金の多いほうに行こうとしたりする。そうして頑張っているようだけど、実は個性を摩滅させるほうに頑張っているわけですよ。(河合)

けれど定性的な物言いに安住することもまた危険なことなのでしょう。ぼくたちはまずは言語化、数値化のフロンティアまで進み行かなければなりません。そこで初めて語り得ぬものに対しては口をつぐむのか、さらなる新しい言語を生み出していくのかを選択する権利が与えられるように思います。

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