成井豊『あたしの嫌いな私の声』

読んだ本はなるべく全て、記録として残しておこうキャンペーン中です。

成井豊といえば劇団キャラメルボックス率いる劇作家。意外にも彼の小説作品は少なく、これは小説として出版された作品としては(つまり舞台化を前提に書かれたものをノベライズされたものをのぞけば)唯一のもらしいです。

とはいえ、やはり物語は「劇的」に進行します。ある女の子が声優として初めての仕事を任されることになったのですが、第一回目の録音を前にして声が出なくなってしまう。その原因はある強烈な力を持った男によって操られていた……とまあ、そんな話です。こういうのは好きずきでしょうか。ぼくはどっちかというとあんまり入り込めなかった。

前回エントリーで『夜は短し歩けよ乙女』を紹介した際に地名が効果的に使われている旨、書きましたがこの『あたしの嫌いな私の声』にも東京の地名が頻発します。

しかしいかんせん、効果的とは言い難い感じも。どこそこからなんという地下鉄に乗ったの、なんとかいう交差点で右に曲がったの言われても「わかったわかった」という感じにしか受け取れない。

これは単に地名が作者の舞台としたい場所を示す記号にしかなっていないこと、つまりはなぜその場所でなければならないのか、という部分に説得性がないからではないのか? という気もします。渋谷と一言に言っても、読者はそれぞれ読者の持つ渋谷感があるわけで、それにゆだねすぎている、あるいは作者と同じコードを読者が持ってるよねっ、ていうのを強要してくる、そのあたりが弱点なのかな。

以上、自戒も込めて、です。

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