小川洋子『寡黙な死骸 みだらな弔い』を読みました。

文句なしに素晴らしい。小川洋子はやはり短編の密度がたまらなく良い。短編集と言いながら、少しずつ緩やかなつながりを持たせた連作集とも言えます。あの場面の何気ないあの物体が、この短編のここに登場している……という具体的な記述を探していく楽しみもありますが(けっこう話数を重ねてから突然出てくるパターンもあります)、しかしなにより「とむらい」という共通したテーマが全編を貫いています。得体の知れない悲しみ、事故や失踪など本人にはどうしようもない突然の別れもふくめて、もはや語ることのできない「死骸」になりかわって生き残った者たちはそれぞれに不在の時間を重ねていきます。狂気の中に逃亡する小説家もいれば、憎しみや自らのクラフトマンシップのために人を殺める者もいたり……それぞれに濃厚な物語が、淡々とした語り口で、それこそ冷蔵庫の中にいるかのように語られていきます。それが、とてつもなく小説としての心地よさを与えてくれる。美学、と言ってもいいんじゃないかと思う。

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