堀江敏幸『未見坂』を読みました。

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『未見坂』は……なんと言いますか、この著者にしては珍しくハートウォーミングな短編集というか、装丁含めいかにも新潮社の現代小説ですッという匂いがぷんぷんする一冊でした。雪沼もの(雪沼もほんのちょっとだけ出てきて、その世界と地続きになっていることが示唆されていますが)の焼き直しという感じで、未見坂を含めたその田舎の地域に住む老若男女の人間関係とエピソードがゆるくつながりながら展開される連作集です。初出の発表媒体も複数に渡っており、発表順も必ずしも目次の通りの時系列でないことから、どこまで見通しながら作品が書かれたのかは想像するしかありません。

しかし登場人物のあまりのバランスの良さ(本当に老若男女がほぼ同じ割合で出てきます)、めちゃくちゃな悪人が出てこない点、そして時代の流れに前の世代たちが流されていくその「どうしようもなさ」の種明かしのやりかたとか、ちょっと優等生の書いた小説っぽさが出過ぎていて楽しめない。むしろ保坂和志の『残響』みたいにして、無理にエピソードをつなげる必要もなかったんじゃないか、という気もしてきます。なんというか、「こんなところでつながっていたんですよ~!」という種明かしをひたすら読まされているだけで途中からしんどくなった。それはたぶん背景にある田舎の人間関係の濃密さというか、社員旅行のくだりとか、そんなこと噂し合うなんてことがいくら田舎だからって本当にあんのかよ……という息苦しさにかなりついていけなくなる。

連作集という宿命の中で、人間関係にその「つながり」を依存するとこういう絵にかいたような田舎町の人情ものにしかならないのだろうか? ぼくにとっては純粋にテクニカルな興味を引き起こさせる小説でした。

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