吉本ばなな『アムリタ』を読みました。

を、読みました。

著者初の長編であり、やはりその後の長い作家生活において一つの基軸となる「オカルト」がほぼすべてここに出尽くしているようにも思えます。『アムリタ』自体は、作中に登場する作家が、主人公の女の子の通過してきた出来事を小説に書き上げようと言ってあげたタイトルそのものであるので、この小説自体が一つの入れ子構造になっています。つまり、作中の竜一郎が描いた作品を読者は読み、竜一郎の筆を通じて、その枠内でのみ主人公の朔美の不思議な出来事を体験していく──それは、文庫本を読んでいる最初のうちは全く明かされないので意識されないのですが、最終的にそう思って読み返すとやはり奇妙というか、気持ちの悪い作品だったりします。

夢であったり、第六感的なものがこの物語の原動力にはなっているのですが、それでも死んだ妹の恋人と関係してしまうあたりがなんとなく最後まで気持ち悪さを引きずると言いますか、そしてそれを当の男が小説に仕立てていると思うと輪をかけて気持ち悪いというか……。ただ、この小説の登場人物たちはある意味でそういうタブーだったり、社会的な常識的な枠組みから逃れることで生き生きとしている面があるし、この小説においてこれは大きなテーマでもあるわけです。

吉本ばななの「オカルト」的な方面が苦手な人はやはり一定数いるでしょう。それはこの初期のころからその後のスピリチュアルな対談本も多数出している中で確実に作家の中の一つの柱であることは間違いないのですが、そこが、吉本のもう一つの大切な価値観である生活の中の倫理性だったりそういう「まっとうな」面との近接具合があやうかったり、あるいは見えづらかったりすると「女性作家の地に足ついたエッセイ」みたいな形で売れたりもするのでこの辺りはなかなか昔からの読者としては複雑なところです。

そういうところも含めて、本作には小説でしか表現できない力があります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA