コルタサル「南部高速道路」

岩波文庫によるコルタサル短編集を読みました。長塚圭史演出で現在舞台化されている「南部高速道路」も入っていて、少し気になっていたので手にとると、やはり集中、この「南部高速道路」がずば抜けて印象に残る作品でした。

パリへ向かう途中、原因不明の大渋滞に人々は巻き込まれます。冬の寒い中、一週間以上も(!)のろのろ運転をし続ける中で、ある技師とその周囲のドライバーたちがつかの間協力しあい緩やかなコミューンを形成します。本編のほとんどはこのノロノロ運転の中で形成されたグループの人間模様が描かれるのですが、食料が尽きたり病人が出たり流言飛語が飛び交いと、それはまあ社会の縮図のようなものです。圧巻はラストシーン。なぜかわからないが渋滞が突如解消され、車はどんどん加速し、加速していくに連れてつかの間のコミューンがまるでもう無かったかのようになってしまう。隣を走っていた車ははるか前方に消え、いつに間にか知らないドライバーたちが技師の周りを埋め尽くしている。これはもう人生の縮図。

車はいま時速八十キロで、少しずつ明るさを増して行く光に向かってひた走っている。なぜこんなに飛ばさなければならないのか、なぜこんな夜ふけに他人のことにまったく無関心な、見知らぬ車に取り囲まれて走らなければならないか、その理由は誰にも分からなかったが、人々は前方を、ひたすら前方を見つめて走り続けた。

池澤夏樹の世界文学全集の短編集にも収録されています。遅ればせながらラテンアメリカ文学ブームに乗ってみようかしらん。

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