小津安二郎『東京物語』

早く帰れたのでDVDを借りてきて見ました。
小津の『東京物語』。

なんだかもう、言葉を無くした。
これほど濃密な物語をかつて映画で体験したことがない。

尾道に住むある老夫婦が子や孫のいる東京に遊びに来るのですが、子供達は仕事やらなんやらで忙しく東京案内を面倒くさがります。

仕舞いにはお金を出し合って熱海に行ってもらう。けれど熱海では若者達がどんちゃん騒ぎをしていて全く気が休まらず「もう帰ろうか」ということに。

いったん東京に戻ってくるも夫は昔の友達と会って泥酔して夜遅く帰ってきたり、妻も行くところが無くて戦争で亡くした子どもの未亡人(って今は使っちゃいけないのか)宅へ居候したり。

結局夫婦は尾道に帰るのですが、妻は間もなく亡くなってしまいます。子ども達も尾道へ集まるのですがなんだか下世話な話ばかり。そして子ども達が再び東京へ引き上げていき、夫は背中を丸めて一人部屋でうちわを仰いでいる……。

そんな話です。

シーンの全てに惹きつけられる。

あの老人ののんびりとした語り口調の裏にあるものすごい諦念、というか達観。しびれる。でも久しぶりに東京で会った田舎の友達と飲み過ぎてしまう弱い部分もちゃんと描かれる。そこがもう、泣けてくる。「久しぶりに友達と会って飲み過ぎてしまった」と情けなさそうに語る、それだけで、そのたった一言の「友達」という言葉の裏側にあるものすごい長い時間、歴史、それに圧倒されて泣けてくる。

原節子の役どころもとにかくすごい。彼女がいなかったらなんの救いもない話になる。正義感の強い義妹へ、人は変わっていってしまう、仕方がない、みんな自分の生活が大事になってきてしまうんだと諭すと思いきや、最後の最後の最後で彼女が見せる、戦争で死んだ夫を忘れていってしまう自分への怒り。そのアンビバレンスがもうとにかく泣けてくる。

久しぶりいい映画を見た。

あんなふうに年を取れたらすばらしいと思う。小津は初めて見たのですが、これを機会に他の作品も見てみたい。

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