「最短距離で」

距離というのは何なのだろうか。それは空間も時間も含めての話なのだけれど、けれど、どちらかというと後者について言いたいのかもしれない。

「まるで昨日のことのように」
そう感じているのが自分だけだったとしても。

たとえば人が自らの行動を変えるきっかけなんていうのはほんとうに一分にも満たない出来事で充分なんだ、という時の時間感覚とは似ているようで似ていない。

むりやり忘れようと捨てようとしていたわけではなく、むりやり冷凍保存してうっかりその存在を見えなくしていた自分の愚かさとか。いやもっと愚かなのは、しっかりそれを今が時期だからとかなんとか言いながら手を突っ込んで持ち出しちゃったことなのか。

ちょうど今はそんなところなのだろう。

距離を超える。
最短距離で、距離を超える。

しかしどちらが?

過去が現在に追いついたのか、現在が過去に舞い戻ったのか。このことの答えを出す勇気を持たないぼくにとってはただ、自分の今の立ち位置を人から教えてもらうばかりだ。その声さえも、水の中にいて遠くから響いてくるだけでよく聞こえない。すっぽりとなにかに捕らわれている。

ここはとても居心地がいい。
酸欠になることすら気づかずにいられる。
拾い集めた言葉の標本を並べて、ぼくのコレクションはまた一つ増える。それを愛でていることがこれからの短い人生の大部分を占めることにさえぼくは恐怖を感じない。そういうたぐいの勇気だけは持っている。昔からそうだったから。

上から呼ぶ声がする。彼らはぼくの状況をうまく言いあたることができるのだろう。そうしてそれをわざわざぼくに告げ知らせることを喜びとする人々なのだろう。だがそれは無用だ。

午前0時の日曜日。
そういう空想が可能な最後の時間を、ぼくはもう少しだけ幸せと呼びたいと思っている。

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