池内紀訳カフカ小説全集『失踪者』を読みました。

友人マックス・ブロートが編集する以前のカフカ自身の手稿をベースとした全集。かつては「アメリカ」というタイトルで親しまれた作品です。

その名の通り、女中をはらませてしまった17歳の主人公がアメリカに渡って、「仲間」にだまされたり時には大人たちの優しさや厳しさ、身勝手さに翻弄されながらなんとか糊口をしのいでいく一部始終が描かれています。

あんまり通り一遍のことを言ってもしょうが無いのですが、やはり「全体感」が見通せないカフカらしさは健在。特に冒頭の船の内部事情の描写や、エレベーターボーイとして就職したホテルのヒエラルキー、そして最終場面で就職するサーカス団の面接手続きなど、どこまで行ってもよくわからないまま突き進む主人公の視線から決して描写がぶれない。種明かしは決してない。わからないものはわからないまま突き進む。そこが読んでいて非常にスリリング。それぞれがそれぞれに「城」になっています。

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