スマホで夏目漱石

最近、スマホのキンドルで夏目漱石を読んでいます。

電子書籍というと、古臭い私はわざわざ古来から進化しつくしたこの電池のいらない最高の形式を逸脱することにあまり乗り気ではなかったのですが、『はちみつとクローバー』のスピンオフが電子書籍でしか手に入らないということからついにスマホにキンドルを入れるという形で始めました。と言っても読んだことのないものを買うのはちょっとまだやはり怖くて、持っている文庫の再読の際に青空文庫に該当作品があればそれを活用するという形で少しずつ手を広げています。もともと青空文庫は、裏方の方のご苦労は非常に察するに余りあるのですが、国文科出た身として本文が信用ならない(論文で引用するにはリスクが高い)ということから、あまり電子書籍云々以前に触れてはきませんでした。その感覚は今でもあまり変わっていなくて、青空文庫で「本当に読んだ」というにはやや胸張れないというか、なんとなく作品を読んだというよりは受験参考書に切り取られた問題文を読んだ、というような変な読後感であることには変わりないです。

繰り返しますが、ぼくという人間が非常に古臭いために、こういうことを書いているのです。

けれど便利であることには間違いありません。老眼には優しい文字の大きさ設定、読了までの残り時間目安(手になじむ文庫本の「厚さ」の形代なんでしょうが)、そしてなによりいちいち本を持ち歩かなくても、あるいは買ってすらいなくても、スマホさえあれば隙間時間に読書ができるという便利さはこれはかなり代えがたい。ちょっとした時間に読書を進められるのは本当にありがたい、出張中の電車の中とか、ちょっと買い物して長い列に並んでいるときとか。かつてにくらべて今の人は「待つ」ということに対する時間感覚がだいぶ変わったんでしょうね。

さて、それで夏目漱石を集中的に読み返しています。『門』『彼岸過迄』『行人』『道草』ときてそしていま『明暗』。しかし『門』以降の作品は、ぼくがもし結婚して40代にでもなったらまた読み返すんだろうなと何となく漠然と思っていましたが、少し早いですが今そんな感じです。しかし、暗い作品ばかり。ひたすら金の話ばかり。『行人』も本当に面白い。失楽園ばりの展開の後で、兄が狂っていくところはいつの間にか読者を「笑えない」地平までらっし去ってくれる。『彼岸過迄』も形式とか人称の破綻っぷりはあるんでしょうが、それ以上にリアリズムのかたまりで、漱石の気迫というか、特に宵子が死ぬところなどこれを書かずにはいられなかったんだな、というのが伝わってきます。

青空文庫はまだ泉鏡花や夢野久作、横光利一など読みたいものも入っているので引き続きちびちび再読に活用していきたいと思います。しかし最近、紙の本は高いね。薄い文庫本でも1000円くらいしますよね・・・。

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