夏目漱石『明暗』(青空文庫)

を、読みました。

岩波文庫で読んだのがたぶん高校生くらいの時だったような気がしますが、それから十年以上の時を経て再読。やはり当時鮮烈だった「ここで終わるのか~!」という感覚はやはり健在でした。ここで終わってしまう、この後「則天去私」を具現化したのかどうかは全く興味ありませんが、どのような筋をたどるのかはやはりすごく気になる終わり方です。この結婚前の女との、三角関係にすらなっていない状態でのすれ違いというのが、いちいち映像的で、胸が騒ぎます。特に温泉宿にのこのこ行って、清子と階段の踊り場で遭遇してしまうところなど、この瞬間のためにこれだけの膨大なページ数が費やされてきたと言ってもいいのではないかと思うくらいでした。もちろん漱石はそんなセンチメンタルな作家ではないのでしょうけれど。

漱石はとにかく、同じパターンでタイトルをつけなかった作家という認識ですが、この「明暗」というのが、なにが明で何が暗なのか、いまいちよくわからない。人の心の明暗なのか、登場人物それぞれの社会的な地位・位置の明部暗部なのか。この興味を押して「続-」に手を出すのは何となく無粋な気もしますが、それを求めたくなるほどの勢いで中断してしまった作品の魅力は、例えとしては月並みではあるけれど本当に腕の無いヴィーナスのよう。

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