青山七恵『ひとり日和』

ひとり日和
ひとり日和
青山 七恵

去年の「文藝春秋」を引っ張り出してきてやっと読んだ。珍しく石原慎太郎が芥川賞選評で褒めている。

会話のテンポが独特でいい。たぶん、人間ってこんなもんだろうと思う。そんなに深いことを長々としゃべったりは、しない。淡々と進んでいく四季が、心地よい。でもちゃんと小説だ。

「あたし、こんなんでいいと思う?」

というラストシーン近くの台詞が全てを引き締めている。この一言で、この小説は毅然と立っているその地盤をきっちりと固めていると思う。

「吟子さん。外の世界って、厳しいんだろうね。あたしなんか、すぐに落ちこぼれちゃうんだろうね」
「世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ」
 吟子さんは、きっぱりと言った。そんなふうにものを言う吟子さんを、わたしは初めて知った。その言葉を何回も頭の中で繰り返していたら、自分が三歳の子どものように何も知らず無力であるように感じられてきた。


机を買い換える

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今まで使っていたガス圧で高さが変えられるテーブルの天板がゆがんできた、かつガス圧周りのプラスチック部品が壊れたので買い換えました。

とりあえずOFF HOUSEへ売りに行きましたが800円にしかならず(泣

んでもって、もう同じタイプのものは買うまいと思い、そしてもうさすがにこの部屋の広さだと椅子に座って・・・というのも無理かなと思い、ガラスのセンターテーブルを買いました。

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これのブラウン。

大きさも小振りでなかなか良いです。やっぱりガラスだと透明なので威圧感がないですね。


読書読書読書の三連休

フランツ・カフカ『失踪者』
レム・コールハース『コールハースは語る』
西沢立衛『建築について話してみよう』
東京大学建築デザイン研究室『建築家は住宅で何を考えているのか』
大橋禅太郎・雨宮幸弘『秘伝すごい会議』
保坂和志『〈私〉という演算』
河合隼雄・吉本ばなな『なるほどの対話』
小川洋子『密やかな結晶』
小川洋子『ブラフマンの埋葬』
小川洋子『やさしい訴え』
小川洋子『ホテル・アイリス』
堀江敏幸『雪沼とその周辺』

小川洋子はあと一冊で文庫で出ているものについては読破。堀江敏幸はこれからもっとも読みたい作家。保坂和志は新刊も実はまだ未読。はやく追いつきたい。都市論・建築関係も興味は続いています。大体現代で有名な日本の建築家の名前は頭に入りました。


休日哲学

「あー、休みたいなー。今すぐ帰りたい」
「休んでどーすんの」
「は?」
「休んでなんかやりたいこととかあんの?」
「ない」
「ないのかよっ」
「いや、そうじゃないんだ。俺の『休みたい』は結局の所、『会社に行きたくない』の謂いなんだ」


【小説】ノブレス・オブリージュ〈第四章〉

     四 パーティーが始まる

「初版が刷り上がりましたので、著者贈呈分として持って参りました」
 西洋史学科の研究室に珍しくスーツ姿の女性の姿があった。
「ああ、どうもわざわざありがとう。どうぞ、本ばかりでせまっくるしいですがお掛けになってください──コーヒーでよろしいですか?」
 準教授である東山幸弘はそう言いながら腰をかがめると備え付けの食器棚をがらがらと開けた。
「あ、すみません。どうぞお構いなく」
 狭い研究室には三人の教官が所属している。天井にまで届く本棚によって部屋を四分割し三人それぞれのデスクスペースを確保すると入り口に一番近い一区画を応接室と称して学生に開放している。あの狭い出入り口から一体どうやって搬入したのかと思わせるほど大きな木の机の周りに椅子が並べられている。彼女の通されたのはそこだ。
 大抵は暇をもてあました学部生が書籍検索用の端末を叩いたり「史学雑誌」のバックナンバーをあさっていたりするのだが、春休みの今は隣室で静かに書き物をするロシア史専攻の教授がページをめくる音だけがする。
 コーヒーカップを二つ持って席に着くと、幸弘は編集長が机の上に置いた常葉出版の大きな紙袋の中から刷り上がったばかりの自分の本を取り出してその表紙をじっくりと時間をかけて眺める。『誰もが女の子だった──戦後少女漫画史の試み』。正直なところ、この題名は彼の気に入っていない。目の前の編集長に土壇場になって変更を余儀なくさせられたからだ。硬質な学術書の時ほど「○○の○○における諸問題」だとか「○○試論」といったおあつらえ向きの題名を嫌がる一方で、一般読者向けの新書などでは思いっきり学術書めいた題名を好むこの男の習性を、編集サイドはよくわかっているらしかった。幸弘が出していた案は『〈少女文化〉のトポロジー』だった。そのことを除けば、装丁も組版もカバーの紙質も申し分がない。
「池袋の三省堂では水無瀬吟子の『陽のあたたまるまで』が映画化されるプロモーションの一貫として、アート系の少女漫画を集めた書棚を来月から一ヶ月間設けます。版元としてはそこにもこの本を一緒に置いてもらうことにしています。きっと食いつきもいいと思いますよ。最近は少女漫画の読者も多様化してていますから」
「大学の生協じゃあ、マンガはあまり置いてないから、今の若い人達がどんなものをおもしろがるのかなかなかわからないんですよね」
「それがわかったら、出版社は苦労しませんよ」
 編集長はそう言って笑う。大口を開けない上品な笑い方だ。幸弘はそういうのをずいぶん久しぶりに見る気がした。
「『陽のあたたまるまで』は私も知っています。うちの甥が大学生なんですけどね、彼も私んところ来ては珍しく手放しで褒めるんですよ」
「嬉しい限りです。それから先生、水無瀬さんも今度のパーティーには来ていただくことになっていますので。──正直なところ、そういうフォーマルな場所には向いていない方ではあるんですけど……引っ張ってでもつれてきますから。いろいろとお話しされるといいと思いますよ」
「そうですか、それは楽しみだ」
 幸弘はそう言って目を細める。
「それでは先生、申し訳ないのですけれど私、もう行かなければなりませんので。コーヒー、ありがとうございました」
 立ち上がる編集長を研究室の出口まで見送る。
「お忙しいところ、こちらこそありがとうございました」

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