松田道雄『私は赤ちゃん』

を、読みました。

やはり育児書のディープな世界に足を踏み入れるにあたって、松田道雄は避けて通れない関所なのでしょうか……かつて勢古浩爾が何かの本で松田の『恋愛なんかやめておけ』をこき下ろしているのを読んだことがあって、あるいは様々な前評判と先入観が手伝って『私は赤ちゃん』も読んだらトンデモ本だった、なあんて感想を書く日が来てしまうのかとどこかで恐怖していました。

しかし1960年に出版されたとは思えないほど内容は全く古びていません。もちろん医学的な記述は、もし今もなお岩波新書青版として出版し続けるにしても、この50年で改めるべき事態となっているのであれば注釈をすべきなのでしょう。けれど、著者が一貫して訴えているのは「赤ちゃんのことは赤ちゃんに聞け」ということでしかありません。このことだけは今後もきっと、どんなに「科学的」と称されるテクニックが生み出されたとしても、変わらない育児の基本中の基本なのでしょう。平均という結果論に惑わされないこと、子供も大人と同じくらい千人千様であること、親は全能ではなく環境の一部でしか無いこと、などなど……。

ぼくが紹介するまでもないことですが、本書は赤ん坊が生まれた日から一年経つところまでの様々な出来事を、赤ん坊の一人称で語った一種のフィクションです。けれど思いっきり赤ん坊を擬人化すること(変な言い方ですが)、これは言葉を喋ることができない新生児に対して親が毎日毎日やっていることなのです。その意味で、ゆえ知れず泣きわめく目の前の「怪獣」を「人間」に引き戻す想像力をストレッチするには、本書を読むことがとてもいいレッスンになります。

時々著者が顔を出すのも良い。何故か安保反対の話になったり、医療保険制度に対する憤懣を登場人物に長広舌させるなど、ときどき本題からはみ出すその勢いも時代がかっていてとても良い。そして岩崎千尋(ちひろ)の挿絵も、味があって本当に良い。古い本だからといって捨て置かず、温故知新、まっさらな気持ちで読んでみて心温まる本でした。


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