ボルヘス『伝奇集』

を、読みました。

極めてブッキッシュな小説達……とでも言ったらいいのでしょうか。とにかく、小説について、人がモノを書くことについて、本についての小説が収められています。

有名な「バベルの図書館」は何度読んでも、その広大深遠で暗く冷たい図書館のイメージが頭の中から離れません。ぼくたちの読む本は必ずその書架の何処かに収められているのです……そこには全ての予言、すべての事実が記述されているのです。「無限」というものに対する極めて手触りのある実感を、たった数ページの短編でボルヘスは僕たちの脳みそに直接訴えてきます。

面白かったのは「『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール」。これはメナールという現代の作家が上梓した『ドン・キホーテ』についての考察で、もちろんこれはセルバンテスの原書と一字一句違わない本なのですが、要するに古典を現代文学として読んだらどうなるか、というはやりのテクスト論についての小説です。

文体の対照もまた甚だしい。メナール──彼は結局、外国人である──の擬古的な文体にはある気取りが見られる。先駆者の文体にはそれがなく、その時代の普通のスペイン語を自在に操っている。

『日蝕』でデビューし、「バベルのコンピュータ」で読者を煙に巻く現代作家がボルヘスを好むのもまたうなずけるというもの。
そういえば村上春樹『風の歌を聴け』に出てくるハートフィールドも架空の作家らしいですね(あの「あとがき」の背後でゲラゲラ笑っている著者の姿がなんとなく彷彿とさせられますが……)。

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