山川あいじ『やじろべえ』

を、読みました。

一言で言えば『うさぎドロップ』をいくえみ風にした感じ。死んでしまった奥さんの連子と一緒に暮らす男と、その周囲の人間模様、という筋立てはまったく同じなのだけれど主人公はあくまで連子の女の子。彼女の周囲でめまぐるしく活動していく人間たちを基本的には信頼する。いい人達だ、と考えている。でも、考えようによっては、人によってはその善意も悪意に見えてしまうかもしれない。そういう危うい視点=支点を中心に揺らぐ思春期の心の模様を「やじろべえ」というタイトルに仮託しているかもしれない(実際は男の実家の和菓子屋の店名だけどさ)。でもそういうふうに読める。

絵は達者。コマ割りが少し細かくてコミック単行本で読むには字が小さすぎたりもするけど、慣れれば気にならない。それよりも独特のプロット進行、短いセリフを畳み掛けては妙な間を持たせる大胆な繊細さ。このあたりがグイグイ惹きつける。『うさドロ』の焼き直しでしょ? と切り捨てられない魅力は、たぶんモチーフが一緒でもテーマが全然違うからなのだと思う。

おすすめです。

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