深沢七郎『楢山節考』を読みました。

新潮文庫の短編集なのであまりに有名な表題作以外にもいくつか短編が収められていますが、今となってはあまり読まれる意義もないものでしょう。「楢山節考」は、姥捨て山の説話をベースにしてその風習が行われている楢山の村にひろく伝わっている歌=楢山節の歌詞を解釈していく、言ってみれば文化人類学的視点を装った小説です。その形式からしてかなりユニークな作品で、この独特の語り口は日本文学史上唯一無二と言っていいでしょう。

最終場面の、実際に母を姥捨て山に捨てにいく場面はなかなか胸に迫るものがあります。このラストは、はっきり言って小説の冒頭化からすでに予感されているものなのですが、実際に山の中の石の上に母を置いて、禁忌であるはずなのに一度戻って母親に話しかけてしまうところなど、やはり読んでいてため息をついてしまう。

姥捨て山の伝説がどのような社会的背景を持っているのか、ぼくには寡聞にして知るところは少ないのですが、少なくとも本書においては認知症介護問題というよりは、ひたすら食糧問題として語られ続けています。とにかく「たくさん食うことははしたない」という道徳観が楢山節そのものにしっかりと、背骨のように一本つらぬかれていることは確かです。ウィキペディアなど読むと、実際にある年齢になったら山へ捨てられるという風習があったという地域は特定されていないということで、これはあくまでも老人への敬意を促すための道徳的な作り話だったのではないかという説が強いようです。そういう現実かどうかわからない「あわい」において小説的なたくらみをふんだんに盛り込んだこの作品は、発表当時から今に至るまで読者に与える衝撃を弱めることがありません。

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