
ちくま文庫らしい五臓六腑に染み渡る文庫本。シリーズケアをひらくにも採られていてもおかしくないくらいの内容(たしかに初出が医学書院の新聞なのも偶然ではないのでしょう)。また、鷲田哲学も思わせる、弱さを肯定するというテーマ。
でも決して上からではない。医者の肩書を持つ著者だが、そこに対する居心地の悪さもしっこり自覚しながら言ってみれば等身大の「とほほ」な記録だ。しかしそれが心地よい。
人身事故のエピソードが心に響いた。たしかに誰かに怒りを感じるときは、その人が普段我慢していることを他の誰かが我慢せずにやっているのを目の当たりにした時だ。それは嫉妬とは違う。自分が気を遣って我慢していることを無にされているから怒りになってしまうのだ。まったくその通りたと思った。