大学卒業間際の自己の迷妄期にひたすらよく読んでいた本の一冊。ということで何回も読んでそのたびに違うところに線が引いてあったり、よくわからん書き込みやら図解やらがあって、当時の必死さがよく伝わってきたりします。
そういう本は当時何冊かあって、しかしその問題意識は全く解決されていないのですが、年を取ると全く振り返ることもなくなってしまう。自分なんてしょせん自分だろ、みたいな諦念に至ってしまう。ちょうど、「四月は君の嘘」の「君はどうせ君だよ」という老成したセリフのように。
いま、作者のwikipediaを覗いてみたら、2016年に病没されていました。一般読者に寄り添ったところがとても良い書き手だと思っていたので、今更のようですが非常に残念です。ご冥福をお祈りします。
本書は19世紀のユダヤ人思想家ジンメルの著作をベースにしながらも、作者の個人的な動機(それもふくめて本書ではかなり具体的に描かれているのがとても良い)を出発点にして、現代に生きる僕らの人間関係や自己実現に焦点を当てて論が展開されていきます。
平野某氏の分人主義(なんだ、主義って?)のような強者の割り切った人生態度も、人類補完計画の忘我の気持ちよさも、いずれも独りよがりのものだと批判しつつ(比喩です)僕らはどう生きていくべきか? 弱い自分を自覚しながら大人の距離感を他人と取り(他人も同じ人間であることを尊重し)、新しいテクノロジーに対しては目的を明確にして利用すべく変容を促していく(その強力な手段としてのお金)態度……みたいなのが、目指すべき現代人の生き様なんでしょうか。
社会はスタティックな「構造」なんかではなく、自分自身もまた結節点として機能していく動的なものと捉えることは、心がけ次第と言えばそうかも知れませんがすこしだけ生きる勇気が出てくる、そんな本です。