おそらくは新潮社から当時刊行されてた自選選集のプロモーションの一環として編まれたムック。インタビューと、「ちんぬくじゅうしい」という短編(これはなんかの作品集に再録されていたはず)、加藤典洋による解説と、あとこれがものすごく平成っぽいのだが波照間島に新潮社の企画で旅行して書かれた旅行記というか日記が収録されています。なんとなく会社の金で南の島に行って雑誌一丁上がりっという楽天的な感じが時代がかっていてすごくいい。いま同じことをさすがの有名人がやっても誰も読まないでしょう。
巻頭インタビューが改めて良い。世の中に暗い話は現実にいくらでもあるのにそれをわざわざ小説に書く意味はない、疲れて家に帰ってきた勤め人が明日ももう少しだけがんばろうと思えるような物語──それを敢えて「癒し」というマーケティング的なレッテル張りをするのは本屋だけにしておいてほしいが──それを目指すのだという宣言は素晴らしい。加藤典洋の解説もなんかちゃんと読める。難しくない。素直に読める。
表紙は懐かしの初代iMacですね。あの頃はまだモノというか、プロダクトの斬新さがもてはやされ得る最後の時代or時代の最後だったように思います。今やスマホの新機種が出ても、目に見える新機能はアプリの方であって、モノそのものにはあまり新規性はないので。そういうのも含めてなんだか懐かしい一冊。