この系統は本当に好きです。「王国」シリーズ、あるいは『ハゴロモ』からもきっちりと一本の糸でつながっている感じがじます。この小説に書かれている「ちがうことをしない」という哲学が、それこそその後に発売されたエッセイにも受け継がれているわけですが、これはやっぱり小説で読んだ方がいい。
「ちがうことをしない」というのは、いつもと同じ繰り返しをしてぬくぬく生きていくということではない。「ちがうことをしない」とわかっていても「ちがうこと」をしてしまうときはある。それは否定されない。そもそも「ちがう」かどうかは自分だけが決めるわけではない。神様、というしかないのかもしれないが、もっと大きな存在が自分という駒を悠久の時の中で動かしているとしたら、それにあらがわないということだ。その声がもしかしたら我々凡人にとってはたんなる虫の知らせだったり、直感的な判断だったりするのかもしれない。自分で自分はこうだと決めたものをただ守るということではない。決して。そこが、小説でなければ伝わらないんじゃないかという気がする。
たしかにエッセイが発売されたときにネット界隈で話題になったのだ。たぶんそれは、きわめて(インターネット上のサイレントマジョリティにとって親和性のある)保守的な生活感覚にどこか響いたのかもしれない。いつもと違うことはなるべくしない、昨日と同じ今日がおくれるようにしたい。そういう価値観。でも、実際よしもとばななが言っていることは全然違う。行きたくない飲み会に行かない自分を正当化してほしいだけの人はきっと読み過ごす。