吉本ばなな『白河夜船』を読みました。

「眠り」というか、「眠気」がモチーフになっている短編が三つ収められています。もちろん眠りは「死」に最も近い状態であることは十分に踏まえられていて、それぞれの登場人物の置かれている状況は全く違うのですが、結局のところ死も含めて別れてしまった人ともう一度交流したいという怨念のようなものが「眠気」として表現されているように読めました。

現実には「ある体験」のようなことは起こりません。でも、だれもが心の中に持っている、あの人にもう一度会いたい、もう会うことはできないけれどもう一度だけひとこと話をしたい、声を聞きたいというどうしようもない望みを、この小説は刺激してきます。

別に生きていることが素晴らしいわけじゃない。死んだ人の声も、もしかしたら単なる自分の願望を反映した自分の声でしかないのかもしれない。それでもなお、願ってしまう人間の弱さというのか、意気地なさというのか、寝ても死なない厚かましさというか、そういうのをしっかりととらえている筆致はさすが。

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