あとがきで作者は若気の至りであるかのごとく失敗作と評しているけれど、「サンクチュアリ」が良かった。
へんな例えだが、『ノルウェイの森』で直子が死んだあと主人公が傷心旅行した先でこんな出会いがもしあったら救われていただろうか? ということを考えてしまった。設定としては「サンクチュアリ」は、夫と子供を亡くした女性が海辺で毎日泣いているということで、男女は逆なのだけれど。
『ノルウェイの森』では食事や金銭をめぐんでくれる漁師が登場する。もちろんそれは主人公と対峙する登場人物とはならない。単に、そんな風に見られているくらいならそろそろ東京に戻らなくてはと決心するきっかけとして配置される名もなき人物だ。
吉本ばななの小説では、男と女が出てきても必ずしも付き合ったりなんだりというのがゴールに全然なっていない。そんなことよりもっと大事なことが世の中にはある。それが、結果としてたまたま付き合ったりなんだりというところに落ち着くものもあるけれど、もっともっと魂の物語なのだ。