ぼくが子供のころの夏休みと言えば、だいたい午前中にウルトラマンか仮面ライダーの再放送をやっていたものだ。そうでなくとも、いまはもう閉館してしまった渋谷の「こどもの城」にたまに連れて行ってもらうと、ウルトラマンのビデオをひたすら見続けていたものだ。小学生だったし、レンタルビデオという存在も知らなかった頃だ。
ウルトラマンは単なる勧善懲悪ではない。それは小学生ながらに感じるところはあった。だからこそ、(相当にマニアックな回に登場するものも含めて)怪獣たちのソフビ人形が売られ、あるいはデフォルメされ、人気を博した。怪獣たちはそれぞれの物語をしっかり背負っていた。統一的な悪の組織がどこかにあって、そこからひたすらウルトラマンや地球人をやっつけるために怪獣が派遣されてくるのでは決してない。そこが、仮面ライダーや今のプリキュアに至るまでの子供向けの分かりやすい設定と一線を画すところだ。人間の愚かな水爆実験で誕生したとされるゴジラですらある時代(90年代前後にはよくゴジラの映画が作られていた)においては単なる「正義の味方」としてふるまうことさえあった。
ウルトラマンの怪獣たちは全く異なる。それぞれの出自は、悲しい物語が多い。決して彼らは最初から人間を恨んでいるわけではない。破壊活動をしたいわけではない。たまたま、それはぼくだったりあなただったりも同じように怪獣として舞い戻ってくる可能性があるかもしれない。そういう地平にいつもあの30分足らずの挿話は成り立っていた。
いまはyoutubeや画像検索があるので本書に登場する怪獣たちの形態やあるいはまるまる放送時の一話を確認することさえできるかもしれない。懐かしさと、本放送がなされていた時代の時代背景を丹念に追う作者の叙述も素晴らしい一冊です。
しかしゼットンは何回見ても、怖い。BGMが無いのがとにかく怖い。ウルトラマンの目の光が無くなる瞬間、負けるはずのないと思っていたウルトラマンが動きを停止するのが大人になって見てもとにかく怖い。