有島武郎『或る女』を読みました。

まあ正直、物語としてあまり面白いとは思えませんでした。今日性もないので研究者以外はだんだん読まなくなっていくんじゃないでしょうか。

しかし文体は頭から最後までとにかく緊張感が途切れない、素晴らしいものです。三島由紀夫でもここまでのテンションをこの長さで維持できないんじゃないかと思ったりもしました。それはたぶん、有島が本当にこの「或る女」のことを描き切りたかった、というその執念のような気もしてきます。

もう少しうがった見方をすれば、このモデルの女性が現実には高齢まで生きた事実とは違って、懲罰的に死を与える(作中では完全に死とわかるところまでは描かれないのですが、通説に従って)ということを作品として完遂したかった、その執念といいますか。それだけといえばそれだけかもしれません。まあしかし有島も自身、ああいう死に方をしておいて懲罰もくそもないような気もしますし、『虞美人草』を読んだ方がよっぽど時間の無駄にならんわ、と言いたくなる向きもあるかもしれませんが……。

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