嶽本野ばら『シシリエンヌ』を読みました。

この単行本が初めて出た時、嶽本野ばらにはもともと親しんでいてほとんどを読み通していましたが、だからこそ、『シシリエンヌ』は彼の新境地だと疑いませんでした。ぼく自身はついにこの作品で嶽本野ばらは三島賞だか直木賞だかなんでもいいのだけれどメジャーな賞に躍り出るに違いないと信じ切っていました・・・が、ぼくの期待を裏切って嶽本野ばらはその後もマイナーな存在であり続けてくれました。薬物の事件があって、その後の作品は概して初期のみずみずしさ(例えばカフェー小品集のような)やロリータ服方面の執念深い描写を味わわせてくれる傾向も無くなり、自然とぼくは嶽本の良い読者ではなくなっていきました。何年か前に「純潔」という長編小説が出ましたが、あまり読みたい気持ちも起きず、結局は「下妻物語」と「シシリエンヌ」が自分の中では二大傑作として居続けています。

今回、本書を読み返してみていろいろと筋の展開に無理があるところは気になったものの、やはり著者のキャリアの中での一つの頂点であることに変わりはないのではないかと改めて思いました。ただモチーフが、もしいま新刊で出ていたとしたら少し時代の価値観とは、ズレてしまっているかもしれません。もちろんそれも含めて嶽本野ばらということなのかもしれないのですが。

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