ジョゼフ・コンラッド『ロード・ジム』

を、読みました。

『ノルウェイの森』で誇り高き永沢さんはバルザック、ダンテ、コンラッド、ディケンズを読むべき作家として挙げている。そして、ワタナベは緑に約束をすっぽかされた午後に寮に戻って永沢さんから借りた『ロード・ジム』を読む。あるいは、就職祝いのハツミさんとのディナーのときに永沢さんとコンラッドの小説について話をしている。

『ノルウェイの森』において具体的に言及される小説は、日本文学を別にして『グレート・ギャッツビイ』『八月の光』『ロード・ジム』『魔の山』と、音楽に比べれば非常に数少なく、またそのセレクションも『魔の山』のあまりのお誂え向きさ(もちろんそれはレイコさんにつっこまれるわけだけれど)、『グレート・ギャッツビイ』への村上特有のこだわりを小説的な”遊び”と見れば、やはり残る二作の異様さというか、偏向さはいまだによくわからない。

『八月の光』も『ロード・ジム』もそれなりの長さがあって、そしてまあ今日たとえば人気の文庫にいつでも入っていて誰もが読むようなものではない。事実、今回『ロード・ジム』をようやく読めたのは、造本の割にあまりに値段の高い講談社文芸文庫ではなく、例の池澤全集に収められていた柴田訳が満を持して河出文庫に収録されたからだ。それでも文庫で1500円出させるのは、昨今の出版不況を鑑みてもなかなかに気軽に手を出せるものでもない。

もちろん『ロード・ジム』は永沢さんの読書癖の象徴として登場してはいるものの、ワタナベも共感を示す微妙な立ち位置にある。それは、これがジムの単なる出世物語ではなくあるいは貴種流離譚ですらない、解釈に相当の幅がある物語であるからこそなのだろう。誰が誰の何を語っているのか常に意識を張っていないとすぐに言葉の洪水に飲み込まれてしまう本作は、決して読みやすい小説ではない。大学生のワタナベが何を思いながらあの和敬塾で読書にふけったのか・・・。


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