森鷗外『伊沢蘭軒』(青空文庫)

ようやく読み終わった。渋江抽斎と同じノリで読み始めたらずいぶんと違った。ほんと、よくこんな新聞連載が許されたもんだ。鷗外自身も最後の最後でいよいよと作品に対する毀誉褒貶があった(どっちかというと”貶”の方ですが)ことを告白しているけど、まああの時代であっても読者を選ぶ作品であることは間違いなかったのでしょう。分量的にも「歴史そのまま」を体現した純粋客観の史伝を目指した労作と言っていいのでしょうが、これを読了して蘭軒の人となりがおぼろげながら読者の心に思い浮かぶか? 正直、一読しただけではわからない。蘭軒が亡くなるのが全体のちょうど半分まで来たところで、そのあとも子供たちが亡くなるまで、あるいは門人たちの動静の微細まで描き出すのを読むのは本当にしんどかった。漢詩、漢文の手紙はほとんど読み飛ばしてもまだしんどい。鷗外はまだ同じ医者として医学的な観点からの面白さもあったのかもしれませんが。石川淳が激賞しているようですが、もうほんと玄人中の玄人の世界でなかなかついていけませんでした……。

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