リリー・フランキー『東京タワー』

ここに出てくる幾つかのエピソードは、すでに氏のコラムやエッセーで何度か面白おかしく描かれています。でも、その背景にはこんなストーリーがあったのだなと、もちろんこれは小説なんですが、感じ入ってしまいます。

たまたまですが、ぼくも西東京に長く住んでいたし、方南町は一年くらい(それも割りと遅れてきた多感な頃に)住んでいたし、北九州の感じも何度か足を運んだことがあるのでなんとなくわかる。なにより、2001年の、雪と桜の花が舞い散ったときのことはぼくもよく覚えている。氏とは20年近く歳が違うけれど、描く景色は一直線に心に入ってくる。あの頃、リリー・フランキーはこんなことを考えていたのか、全然知らなかった、『文藝』はあの頃よく読んでいたのだけれど。

この一冊、長編と言っていいと思いますが、本当によく書ききったものだと思います。変な言い方になりますが。よくここまで記憶を頼りに描ききったものだと思います。ここにどんな小説的技巧があるかわかりませんが、ころっと騙されてしまえばいいと思います。最後まで明かされない伏線もありますが、それも抱えて人は死んでいくものだし、それを詮索してもしょうがないのだと思う。それは、その人を目の前にして聞けることではないのだから、それはもうわからないままにしておくしかないのでしょう。


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