保坂和志『試行錯誤に漂う』

を、読みました。

いい意味で相変わらずの調子で、やっぱりどうも、素晴らしい。保坂和志が小説を書くようにして、自分も生活したいと思った。なかなかそのように小説を書くのは難しいのだけれど。

とにかく、因果関係とか目的意識とか、そういうものを持たないことなのだ。例えば卑近な例で言えば、ぼくはサラリーマンなのでどうしても会社に行く人そうでない日を峻別して、二項対立で考えてしまう。けれどそれらは一日一日、緩やかにリニアにつながっている。会社にいながら新聞を読んで全然別のことを考えているときもあるし、家にいながら風呂の中で仕事のことを思いつくこともある。会社では仕事だけをやって、家ではて仕事のことは忘れる、なんてことは土台無理だ。だから、平日のために土日があるわけでも、土日のために平日があるわけでもない。ただそれはいきられる時間としてそこにあるだけだ。

そういうワークライフバランス的な思考は、近頃の世相とはもちろん別の話なんだけど、人を必ずしも幸福にしないんじゃないか。ただひたすら考え続ける。手を動かし続ける。それで一生が永遠に続く家のようにいきていく。それだけで、人はいいんじゃないか。金メダルを取る必要もないし、もっと言ってしまえば新人賞を取るために小説を書くよりも、小説を書くというプロセスを日々楽しむこと、それだけでいいんじゃないか。それだけで足れりとする、という小市民的貧乏性ではなくて、堂々と、試行錯誤に漂う日々を謳歌し、フラフラ寄り道していく。

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