筑摩全集類聚『太宰治全集』4

「新ハムレット」は、沙翁の「ハムレット」を読んでいないのでなんとも言えないところもあるのですが、この時期の太宰の真骨頂という感じがします。初期の、特定のモチーフに対する偏執狂的な解剖は鳴りを潜めて、そのかわり、「作家」という営為に対する戯画を通じて、小説家が「私」を用いていかに読者との間に様々な駆け引きを仕立て上げ、二重三重に虚構を舞台の中の舞台のように組み上げていく技術的な充実が光っています。一方で、この時期は戦争前夜であり、世の中が如何に動乱に明け暮れようとも作家は作品を書いていくのだという決意もところどころに見え隠れします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA