筑摩全集類聚『太宰治全集』2

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自身の厳しい過去を何度もモチーフを変えて、人間関係や性別すら置き換えながらも何度も描くというこの悲しさを先ずは愛したいと思うのです。書かなければ消化できない、昇華できない、というのが私小説作家の持ち味であり、宿命であり、あるいは芸であり、カネになる持ちネタではあるのでしょうが、「なんちゃって」と舌を出しながらも何度も書かざるをえない作家という生き物の習性を、いやというほど読まされます。39歳で死んだ太宰は、30台を新しい結婚生活で始めましたが、それでも20代で経験した心中未遂のことを忘れられずに書き続けていることに、まず読者は思いを馳せなければならないのでしょう。忘れたくない。それももちろんあるのでしょう。書かなければ、忘れてしまう。30代ってそういう記憶の危機感との戦いでもあるのかもしれません。

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