村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』

村上春樹の小説はやはりそれ相当の覚悟を持っていつも読むのだけれど、紀行文は気楽に読めて、気楽な読者として相対することをなんとなく自分に許せているような気がして、楽しめる。よくわからないけど、もしかしたら紀行文というのが、出不精な自分だからこそ好きなのかもしれません。本書はなんとなく、過去20年近くの単行本未収録のものを拾い集めているためか、あるいは内容がそもそもかつて住んでいた場所の再訪記であったりするためか、ノスタルジックな色彩が強くて、そこがまた心地よい。旅行記と言ってしまえば未知なるものを探し求めていく若い力を想像してしまいますが、本書のスタンスは基本的に過去に自分の姿を追い求め、その過去=場所がまったく固定化されたものではなかったんだな、というところにある意味では予定調和的に到達する、というもの。そういうパターンはもしかしたらノスタルジーというものの王道なのかもしれないけれど、変化というものを否定せず、あるいは賛美せず、ありのままに受けて入れていく姿が、この作者のスタイルとして、ノスタルジーとは一線を画しているのかもしれません。でもそれは判断保留という言い方もできるのかもしれないし、あるいは読者が求めるムラカミハルキ像をなぞっているようにもある部分では感じたりもしますが……。ただ、小説家という生き物が旅行をするというのは、やはりツーリズムと寄り添いつつも距離を取る、その有り様には学ぶべきものがたくさんあります。

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