開高健『輝ける闇』

開高健なんて、今読む人はいるんだろうか。わからない。芥川賞受賞作を収めた文庫本は、出ているのかもしれないけれと、ベトナム戦争を文学作品を通じて体験しようという「読者」というのは、今の時代にあってすでに珍しいのかもしれない。ドリアン助川だったか、感銘をうけた本としてあげていた気がする。それが少しだけ記憶の片隅にあって、出張先の、これから東京まで五時間の新幹線に乗らなければならない前に本屋に飛び込み、選んだのがこの本だった。旅は、旅を誘発する。でもベトナム戦争は旅なんかじゃない、ましてや冒険なんかじゃ決してない。そして、政治的な駆け引きが国際関係論という「学問」で扱われるとしたら、文学が戦争を扱えるのはまさにここに書かれてある領域なんだろうと思う。最後のページまで文体がなかなか頭に入ってこなかった。それは因果関係や、謎解きや、起承転結といった、小説が従来持つお約束をあらかじめ超越しているからだ。そもそもこれは小説なのか? ルポルタージュなのか? もちろん文字を追うぼくたちにとってそれは愚問なのだろうけれど。

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