中野円佳『「育休世代」のジレンマ』

を読みました。

著者は私とほぼ同世代です……というか、井上円佳さんですよね。それこそ学生時代、よく彼女のブログを読んで感心していました。直接キャンパスでお目にかかったことはありませんが、なんとなく存在は知っていました。新聞社に入るような人はやっぱり考えることが一味違うなと、いい意味でその目線の高さに刺激を受けていました。ブログはしばらくして閉鎖されてしまいましたが、更新を追っていた日々の感動は今でも胸の底に響いています。なので「1ファン」としては満を持してといいますが、そのプロフィールを見るにつけ、そのあとがきを見るにつけ、パワーアップして確実に、社会に響く、あるいはぼくたちが響かせなければならない一石を投じてきたと、個人的には興奮が隠せません。

加えて、ぼく自身が、一歳になんなんとする子供がいるということ、あるいはこの夏に会社で経験したいろいろなことの整理をしたいということもあって、この「女性総合職」の問題は、本当に我が事としていま、考え続けていることです。なによりも、この「女性/総合職」という言葉が自己矛盾をはらんでいるかのような現状が、少しずつでも打破できている、制度面や人々の意識の中で――そうであっても、いざ例えば自分の部下が妊娠したらとか、「女性が働きやすい会社なのか?」と問われた時に自分はどういう言葉を持ち合わせているのか? とか考え始めるととたんに保守的になるというのもこれまた現実ではある。

本書の中では「ケア」の責任の所在が、重要なキーワードとして出てきます。

企業が、ケア責任を抱えず、何時まででも働くことができる標準化された労働者を求める中では、いかに男性と同等の考え方ができ、標準化された労働者に近づけるかの競争が起こる。そこでは、ケア責任を抱えていることはハンディにしかならない。

これは子供に限った話ではなくて、親の介護にために定時に帰らなくちゃならない、いや定時ならまだしも突発事故が起きて昼間に突然帰らなくちゃならないことだって起こりうる。そういうことをなぜある特定の集団にしか可能性を認めないのだろうか? これは男性側にだって絶対に起こる話しだし、それが起きていないということは会社の外で誰かがその責任を押し付けられているということにしかならない。それは会社からしたら直接に社員の問題ではないから、目に見えなくなっているんだけど、じゃあ誰か男性社員の親が認知症で、その妻がひたすら面倒を見て、その社員自身は朝から晩までは会社で働いて偉くなっていって……という構図が、形を変えて常態化しているこの社会で、会社はどこまで責任を持てるのか? 少なくとも、「ケア」の負担をもっともっと分担しようよ! 分担できる働き方に、男も女もしていこうよ! というのは本当に感じる。

単純に、夫婦共働きで子供を保育園にあずけるなら、週の半分は総合職の男性であっても定時に帰れることが可能なのか? それを推奨する職場の雰囲気があるのか? そして幸いにも、「子供」という最強の「言い訳」が通じる職場だったとしても、独身男性や、結婚しても子供のいない社員に「ケア負担」の裏返しがシワ寄っていないか? あるいはそういう社員にも、同じように「ただ、なんとなく、週の半分は定時に帰って好きなことができる」雰囲気があるのか? それを許せるか? 許せるかじゃない、推奨できるか? 新入社員がそういう生活していていらいらする上司じゃないか? ……考えるだけで気が遠くなるような話です。

女性の側の問題もほんとうに難しい。結局、24時間戦えるサラリーマンを「標準」に据えたところでは、産むということも含めて「ケア責任」は「リスク」としてしか見なされない。「女性」が「総合職」として戦うには、(本書にも書いてありますが)、自らの女性性を否定して「リスク」として見なす立場に自分を荷担すること。そうして、二十代はあっという間に過ぎます、「男」のように働いて。そしてそういう女性が、「我社では女性総合職が活躍しています」なんて紹介されたところで、本人にしたらいまさらなんのこっちゃでしかないだろう。突然押し付けられる「女性性」に戸惑うしかないだろう。だから、ジレンマ、あるいは逆説的に、女性が長く働くには、女性性を最大限に活用するしかない、というのが現状で、そういう現状をよしとするのであれば、話は戻るけど、いつまでたっても「女性/総合職」は語義矛盾を抱えたままなのだ。

いや本当にこれは、一部の特定の問題ではなくて、本当に共有されなくちゃいけない問題だと思う。みんなそれぞれいろいろな事情を多かれ少れ抱えているんだから、「ケア責任」を誰かに押し付けては、自分だけ一人休日出勤を謳歌して、フレックスで出社してくる新入社員に「たるんでる」「仕事なめてる」とか言っているような腐りに腐った奴らを一人でも改心させたい。それがダメでも、ぼくたち「育休世代」が、40代、50代になった時に、まずば自分の務めている会社が、まともな会社になっているように今からできることを考えていかなくちゃいけない。

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