堀江敏幸『おぱらばん』

再読。

30年以上生きてきて、パリに滞在したことなど新婚旅行での二、三日にすぎないのだけれど、本書に出てくる光景はある部分ではその何時間かの滞在で目に焼き付けた様々なモノ・コトを材料にして、例えばふと通りがかった路地の入口からその奥になにがあるのかを想像するようにして、文字によって立ち上がる清冽なパリの空気を呼吸できる。

これは小説か? 出来損ないの学術論文か? あるいは須賀にも通ずるある種のエッセイ、百歩譲って私小説か。そんな疑問はことごとく愚問に思えてくる。そんなカテゴライズはどうでもいい。ただ、読む。読むことで、頭のなかで映像が浮かび、本の中の本を読み、次の読書や映画へとつながっていく。小説の役目を遥かに超えているし、エッセイの役目もはるかに超えている。この作者にしかなしえないまさに言葉の正しい意味での「文の芸=文芸」に酔いしれる。

読書とはこういうものだし、だからこそ堀江敏幸の「作品」はその全てに目を通したくなる。

そして、今日33歳になりました。
相変わらず、本を読み、文章を書くことを生活の一部とする人生を送って行きたい。
あっと驚いて寝食を忘れるほどのめり込む作品と出合うことはほとんど無くなりました。そういう「火花」の散る感動を経験するほど心が若くなくなったのかもしれません。だからこそ、じっくりと、大江の言うように、平野の言うように、かつて読んた本をじっくりと読み返したい。それを読んでいたときの若い自分を思い出しながら、一味も二味も違う読書体験で上書きしていきたい。これからも、ずっと。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA