菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー』(キーワード編)

を読みました。

「歴史編」が前期講義で、この「キーワード編」が後期という作りになっています。本書の方は編年体ではなく、言わば紀伝体というか、その名の通り一つのキーワードをめぐって講義と対談が繰り広げられる、という内容になっています。

最終回は意図的に超難解になっていますが、ダンスも即興もなかなかおもしろく読めました。特に言及はありませんが、ダンスも即興も舞台芸術に通ずるものがありますし、インプロビゼーションというとぼくなんかはジャズよりは演劇を先に思い浮かべてしまうのも何か偏見があるのでしょうが、そのあたりの対比なんかも考えてみると面白いのかもしれません。必ずどちらかがどちらかの比喩にしかならないんでしょうけどね。

あと、音楽ってそもそも何なのだろう? という疑問に行き当たるとけっこうわけがわからなくなりますよね。ただ、音、それは単に空気の振動でしか無いはずなのですが、それがある組み合わせになると和音として美しく人間の耳に響くのはなぜなのか? というか、むしろ逆で、人間が美しいと感じる組み合わせを和音と言っているにすぎないのですが、それは人間の耳の構造上どういう理屈でそう感じてしまうのか、とか考えだすと奥が深い問題です。たぶんこの本に紹介されているキワモノの(ノイズ・ミュージックなんかそうでしょうけど)曲達を耳にすれば「なぜこれが音楽なのか?」「なぜこれを音楽と感じてしまうのか?」「人間が音楽と感じなければ音楽ではないのか?」とか、そういうそもそもの疑念に結構行き当たるような気がします。

本書はジャッズにとっての「のだめカンタービレ」を目指さない、むしろ逆だ、と言っている後書きが清々しい。それは確実に成功していると思います。

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