吉本ばなな『不倫と南米』

これは良かった。この「世界の旅シリーズ」三冊目にしてぐんと密度が上がったし、文体も変わった。それまでは行った先の雰囲気に飲まれて、その雰囲気ありきで小説が展開されていたけれど、この南米編は南米そのものをぐっと著者の側に引きつけて、きっちりと消化し、著者のイイタイコトを優先して書かれている。もちろんそれを「スケールが小さくなった」と言う人もあるかもしれない。そういう見方も一つの真実だろうけれど、やはり三冊読んできて、バリ編とエジプト編に比べてぐんとレベルが上がっていると思う。そして作品全体にそこはかとなく漂うさびしさはなんだろう? 不倫をテーマにした故のさびしさなのだろうか? なんとなく、デッドエンド〜にも通ずるものがある。初期の、キッチンやTUGUMIなんかにあったさびしさとはちょっと湿度が違う。なかなか言葉に言い表せないけど、これが著者の中期というか、脂の乗ってきた最初の成果なのではないかと、少し小走りにそう言い切ってしまいたくなる。もう一回どこかで読もう。

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