吉本ばなな『ハネムーン』

再読。

庭の描写から始まるのは、スーザン・ソンタグの「庭は、過去はもはや重荷ではないという感情を呼び覚ましてくれます」というあの言葉を別に踏まえているわけはないのですが、まさに同じ意味なのだろうと思いました。

本書の執筆には三年かかったといいます。先の『ハチ公〜』同様に、新興宗教を舞台としていますが、これはそこから離れていく話。そして、あまりこういうことを言ってもしかたがないんですが、オウム事件が起きたのがちょうど執筆の最中だったということで、そういうのも影響しているらしいです。ただ、この作品はその宗教の邪悪な部分を本当にサラリと書いてあるだけで、けっこう読者が後でこのセリフを言っている背景には実はこんなことが……みたいなことをむしろ再読の際には考慮に入れなければならない格好になります。それから、文体も『ハチ公〜』に比べるとけっこうみっちりとしていて、この著者には珍しくきっちり小説っぽく会話を書いているというか、そういう今から考えればばななっぽくない面もあります。なんというか、この人は小説を書こうとしている、というのが伝わってくるような本です。いい意味でも悪い意味でも。とにかく三十代の最初の三年間に集中して書かれたという点で、「文学史」的に一つの記念碑的作品。

個人的には、やっぱり人々(だけでなく生命は)は変化の中にある、というものすごい達観が、よく現れていて好きな作品です。

何かが治ってゆく過程というのは、見ていて楽しい。季節が変わるのに似ている。季節は、決してよりよく変わったりしない。ただ成り行きみたいに、葉が落ちたり茂ったり、空が青くなったり高くなったりするだけだ。そういうのに似ている、この世の終わりかと思うくらいに気分が悪くて、その状態が少しずつ変わっていく時、別にいいことが起こっているわけではないのに、なにかの偉大な力を感じる。

あと、メモ的だけどばななの作品に骨が出てきたらそれは本当に骨で、記号じゃないんですよね。それがけっこうストレートに感じる作品でもあります。

こことか、参考になりました。

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