柏木惠子『子どもが育つ条件』

を、読みました。

何がおどろいたかって、著者の柏木さんは1932年生まれなので御年84歳ということになります。けれど叙述は非常に学術的で、明晰で、論理的です。こう言っては失礼ですが、よくある達観系老人たちの繰り言では全く無く、ましてや三砂ちづるのような経験でしか語らないなんでこれ新書? でもなく、そこはやっぱり岩波新書。

そして語られている内容は非常に現代という時代に即しています。子どもの発達につての本というのは、結局、子育てに関心にある層がちゃんと読んでいるから別に問題ないのです。問題は、むしろそれ以外の読者に、子育ての何を伝えるか、ということです。この本の真髄は、「子育てを通じて親も自分を成長させる」「子どもは『育てる』と『育つ』のバランスを大切に」というあたりかと思います。特に一点目は、本当に、今の世代の親たちにとっては目からうろこというか、子供の面倒を見なければならないとか、時間を取られてしまうとか、そういう言い方でしか発想できないある意味で個人主義の親たちの眼を開かせる発想の転換だと思いました。『うさドロ』にもありましたよね、子どもといる時間が自分の時間なのだ、と。

うーん、まさにそうなんだよなあ。今までと全く同じレベルの生活を続けながら新たな子育てをすることは出来ないけれど、今まで大事にしていたことを今度は子供を通じて実現させていく。そういうのは、決してなにか自分の夢を諦めて今度は子供に夢を託すというようなことではなくて、全くそうではなくて、一緒に習い事をしてみるとか、洗濯機の使い方を教えてやるとか(本書で「家電」に言及している箇所は本当に、いろいろな人に読んでもらいたいです。家電の功罪をよく言い当てています)、一緒に夕ごはんを食べるとか、そういうことなんですよね。親がいままでの価値観を改めたり、新しいチカラに目覚めたり、そういう事のほうが、親にとってはけっこう励みになるし、大事なことなんだと思います。そこは、なにも子供至上主義ではなくて、すこしクールに、「子供育てちゃってる俺(笑)」みたいな視線で、自分の背中を見てみる、そういうのが結果として適度な距離感で家族を形成できる地盤になるのかなあ、などと思います。

この本は、子供についての本でも子育てについての本でもなくて、そういうことの外側で途方に暮れている人たちに向けた熱いエールなのです。

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