中根千枝『タテ社会の人間関係』

を、読みました。

本書は1967年に出版されてはいますが、まったく古びていません。この本が古びていない理由の多くは、その学術的な態度を貫徹している点にあると思います。日本社会を批判的に解説する書物というのは、得てして海外と比較して日本がいかに「遅れて」いるかを滔々と述べるにとどまることが往々にしてあります。一番たまらないのはそういう紋切り型を読まされる方なのです。もうわかった、日本人の人間関係に対する態度は欧米に比べて本当に劣っているよな、じゃあ明日から職場でどう振る舞えばいいというんだ?

本書はそういう主観と客観のズルズルべったりを見事に超克し、まるで実験室で日本社会を解剖してくれるているようです。そしてそこにはなんら積極的な意味づけは加えられていません。日本というのはこう、欧米はこう、それぞれこういういいところもあれば悪いところもある。それをただメスのようなひたすら冷徹な文体で解剖してくれます。その切れ味も抜群です。

特に会社の合併によって組織が一つになってうまくいく場合とうまくいかない場合の記述は本当に膝を打つものがありました。本当に我が事として読めました。

大事なのは、この日本社会の特徴を全否定して海外流にある日突然振舞いはじめることではなくて、この特性を限界ととらえずに一つのプレイグラウンドとして、一つのゲームのルールと捉えて遊びつくすということなんだと思います。所詮会社での人間関係なんてゲームです。練習すればうまくいくし、失敗したって何度でもやり直せるのです。

講談社現代新書というのは一貫して、今に至るまでこういう日本社会の特性を遊び倒す新書が多くラインナップされていて、何かポリシーのようなものも感じます。以前に読んだ平田オリザ『わかりあえないことから』、鴻上尚史『「空気」と「世間」』といった演劇畑からの新書からアベキンに至るまで。

ちなみに古本で買ったので久しぶりにかつてのクリーム色の表紙が手に優しい。

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