谷崎潤一郎『細雪』

を、読みました。

さすが、「話の筋」大家の面目躍如というか、こんなにも小説的愉悦に溢れた物語に沈潜する体験をさせてくれる作家は本当に、稀有というべきです。中公文庫のこの厚さでも、全く長さを感じさせません。あっという間に、読み終わってしまいました。

でも、ページを見返せばまるで自分の思い出のようにあんなこともあったな、こんなこともあったな、と、郷愁とさえ言えるような懐かしさで胸が一杯になります。それは、本当にこの物語が人生そのものだからなのでしょう。これを読むということがイコール人生と言っても良い、本当に素晴らしい作品だからなのでしょう。

細雪には戦後は描かれません。今、読むぼくたちはその戦争が敗北に終わることを知っているからなお一層、この四姉妹の生き様が美しく逆照射される、というのはあまりにも書生的な「文芸批評」なのでやめておきますが、昭和初期のつかの間の平和、のようなお題目を立てることもまた、あまりの誤読というべきもので、大洪水もあれば病気もあり、戦争の忍び寄る影もきっちりと描かれている中で、タフで頑ななまでのマイペースさを守る姉妹それぞれの姿が明るくみえることにこそたくさんのことを学ぶべきなのでしょう。

とにかく、10年近く我が書架に眠らせ続けていたことを後悔する本でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA