決定版三島由紀夫全集第4巻

を、読みました。所収は「にっぽん製」「潮騒」「恋の都」。

ここまで読み進めてくるとむしろ三島の得意分野は当世都会の一隅や一地方を舞台とした群像劇であって、代表作とされている諸作品はむしろ気取った文学趣味を前面に押し出した気まぐれの作品にも思えてくるので不思議です。いずれにせよ、全集を読む楽しみというのは代表作だけを読んでわかった気になっていた作家像を次々と塗り替えていく作業にほかなりません。布張りの立派な文学全集の中に収まったおよそ俗な世界観の中にこそ三島のくり返しくり返し好んで扱われるモチーフが隠れていて、「金閣寺」や「豊饒の海」といった「島」だけではわからない大海の味を教えてくれるのです。

「潮騒」といえば、小学生の時卒業間際の最後の最後に図書室で借りて読んだ作品でした。まだそのころは文学のぶの字も知りませんでしたが、焚き火の場面はやはりその年齢ながらに印象に残っています。ちょっとだけ大人の読む本の世界に片足を突っ込むことのできた喜びのようなものを感じていたのかもしれません。

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