池内紀『カフカの生涯』

を、読みました。

伝記というのはほとんど初めて読みましたが、抜群に面白かったです。カフカは作家ではありましたが、生前から評価が確立していたわけではなく役所勤めをしながら体に鞭打って小説を書き続け、一部の作品は刊行されましたがそれで食べていけるというほどにも至らず、最後は結核を患ってサナトリウムで亡くなります。

一貫して「書くこと」を最優先にしてきた彼のスタイルには、強い意志を本当に感じます。30代にいくつかの失恋の痛手を受けるのですが、結局それも結婚生活を営むよりも自分の創作活動を優先させたいという逡巡があったからこそなのでした。

そういう、今風に言えば決してコミュニケーションが得意というわけではない(父親との確執!)一人の偏屈な男がこだわり続けて書き上げた不思議な作品たちが今こうして読めるというのも、本当に奇跡のようなものです。

個人的には文学作品を評価するのに作家の私的生活をほじくり返して「ここにはこういう背景がある!」みたいな下手な作家論的アプローチは好きではないのですが、カフカの生涯に触れて、こんな不思議な男の書いたものを読んでみたいというのも、これはこれで充分にアリだなと、思わせてくれる評伝です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA