あずまきよひこ『よつばと!』

あずまきよひこの漫画は、とにかくそのキャラ立ちがすばらしい。そして彼の漫画に登場するのは高校生らしい高校生、子どもらしい子どもばかり。決して大人びた子どもが出てきたり、子どもっぽい大人……は、出てくるか。とにかく、「偉大なるマンネリズム」なのだ。

読者は『あずまんが大王』を読めば自身の高校生生活を思い出すし、『よつばと!』を読めば子ども時代を思い出す。そこに描かれているは、きっと誰もが一度は経験したであろうことばかり。だから必ずその当時の自分と再会するのだ、漫画の中で。

その子ども時代や学生時代の原型をぎゅっと凝縮して彼の漫画は出来ているのだと思う。だからうらやましいとかこんなのありえないとか、普段出来の悪い漫画を読んでいるときに感じるイライラ感とは無縁だ。なぜならそこには等身大の過去があるばかりだから。

巻を置いて顔を上げたとき、一抹の寂しさを感じる。ああ、もうあの頃には戻れないのか、と。

徹底して人生の明るい部分だけを抽出するというのは、すごく「思い出」に似ている。どんなにつらいことでも時が経てば「あれはあれで楽しかった」という気持ちになる。それは過去が過去になるとき。その姿と、あずまきよひこの描く世界はすごく似ている。これは創作に対する一つの態度であり覚悟であると思う。

この漫画を読むことで、大げさに言えば忘れていたエランヴィタールが、とても自分と近しい形で立ち現れてくる。そういう仕掛けを持っている。だから「ダ・ヴィンチ」で今年のベストコミックに取り上げられるのもうなずける。

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