去年の「文藝春秋」を引っ張り出してきてやっと読んだ。珍しく石原慎太郎が芥川賞選評で褒めている。
会話のテンポが独特でいい。たぶん、人間ってこんなもんだろうと思う。そんなに深いことを長々としゃべったりは、しない。淡々と進んでいく四季が、心地よい。でもちゃんと小説だ。
「あたし、こんなんでいいと思う?」
というラストシーン近くの台詞が全てを引き締めている。この一言で、この小説は毅然と立っているその地盤をきっちりと固めていると思う。
「吟子さん。外の世界って、厳しいんだろうね。あたしなんか、すぐに落ちこぼれちゃうんだろうね」
「世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ」
吟子さんは、きっぱりと言った。そんなふうにものを言う吟子さんを、わたしは初めて知った。その言葉を何回も頭の中で繰り返していたら、自分が三歳の子どものように何も知らず無力であるように感じられてきた。