夏目漱石『それから』(青空文庫)

を、読みました。

これもまた何度読み返したかわかりません。夏目漱石の中では一番好きな小説です。というのも、二十代に読んでいたころというのは、代助が高等遊民の座を捨てざるを得なくなり世の中に出ていく、つまりそれまで軽蔑していた「食うために職業につかざるを得ない」という境遇に追い込まれたところが、どうしても自分の学生から社会人への移行期とも重なって、ラストシーンの目の前がすべて真っ赤になってしまう描写などがとても他人事とは思えないという切実さによるところが大きかったわけです。

しかしまあサラリーマン生活も15年もやっていると、代助のそろそろ30歳という年齢もはるか越えてしまい、むしろ一つのドラマとして感得できる余裕もだいぶ出てきます。それが若さを失うことの代償なのでしょうが。再読して感じるのは「それから」こそむしろ「こころ」と題すべき小説だったのではないかな、というシンプルなところです。ストーリーはどうしても世間体に対峙される恋愛感情なわけで、その「こころ」の動きというのは何人にも支配されるものではないというのが一番のテーマなわけですからね。そして後続する『門』のあの超然とした夫婦の姿も、『それから』を読まないと半分くらいしか味わうことはできないのかなあと。


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