保坂和志『読書実録』

なんというか、映画の副音声のようなエッセイ。保坂が読み、書き写し、読者はそれを(活字になったものを)読みながら保坂の読書体験を追体験していく。これは引用、というものでは出来ない業だ。引用は必ず作者側にイイタイコトがあって、そこに寄り添うもの、そこに矛盾のないものだけが切り取られる。それでは効率主義の、権威主義の学術論文にしかならない。この本を保坂が手で書いたのか、パソコンで書いたのかわからないけれど、手で書いたとしたら、もう最後の最後は影印本として出版するしかないんじゃないか。あるいは、この本そのものをぼくたちはまた書き写して、読書という手作業ではない地平を排し、あくまで書くスピードで、自分の筆記を読み返していくことでしか保坂の意図は最後まで汲み取れないのではないか。そんな気さえしてくる、変な本です。帯には「アナキズム小説」て書いてあるけど、これ小説じゃないよね?

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